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校庭を走る運動部の掛け声が、がらんとした校舎の廊下に
反響しながらかすかに聞こえてる。
普通棟の教室には、もちろん誰もいなくて、
ひんやりとした空気にワケもなくもの悲しさを感じてしまう。
廊下にずらっと並んだロッカーの自分の名札の前で立ち止まり、
両隣に連なったクラスメイト達のロッカーを一通り眺めてみる。
ほとんどのロッカーはもう名札が抜き取られていて、
「ああ、卒業しちゃったんだ」って改めて思った。
自分の名札をロッカーの扉から抜き取ってポケットに入れる。
卒業式の日に忘れていった荷物を取り出して、3年間なんて短いなと思いながら、
なにげなく1番はじっこのロッカーの前まで来てしまった。
無愛想っていわれて、友達も少なかった私と違って、
いつでも人の輪の中心にいた彼女とは話したことも数えるほどで、
やっと3年になって同じクラスになれたのに席順も
50音順の出席番号もひどく離れてて…。
机に伏せて寝たふりしながら、そっと盗み見てるだけだった彼女。
そのロッカーの扉には、まだ名札が残されたままだった。
「吉澤」とかかれたその名札に触れながら、
このまましばらく、こうしていたいなんて、
ちょっとだけ柄にもないことを思った。
そっと扉を開けてみる。
ガランとしたロッカーの中、奥のほうの隅っこに
小さなボタンが埃にまみれて転がっていた。
ブレザーの袖口の金ボタン。
彼女のスラリとした凛々しい制服姿を思い浮かべる。
もうすぐ別々の高校に行ってしまえば、
きっと私のことなんて思い出してもくれないよね。
通学途中で出会っても、もう同じ制服じゃない。
そんな事を考えて、そっとボタンを拾い上げたら、
視界が滲んで鼻の奥がツーンとした。
end
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