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「ずるい、ののばっかりずるいわ…今度はウチの番ちゃうのん?」
自分のコーナーの収録を終えて楽屋に戻るとあいぼんとののが飯田さんを挟んで言い合いしているところだった。
「なにがずるいれすか…あいぼんのほうこそズルイれす。おそろいのミサンガなんて、のんだけ仲間外れにして。よっすぃーにベタベタひっつくのはやめるのれす!」
飯田さんの背中に隠れるようにして、ののがあいぼんに言い返す。
で、結局いつの間にか飯田さんそっちのけで二人のケンカになっちゃう…いつものパターン。
ようやく中澤さんとの息もつけない収録を乗り越えて来たのに楽屋は小さな怪獣たちにかき回されそうな予感、ゆっくり静かに次の収録まで休みたいのになぁ。
ケンカの原因…どっちかが勝手にお菓子を食べちゃっただのお弁当のおかずを取った取らないって、そんな理由なら代わりのお菓子を用意したり、飯田さんが取られたおかずを「しょうがないな」って提供してくれたりで、なんとかかんとか仲直りするんだけど…。
最近の二人はことよっすぃーに関することとなると一歩も譲らないから始末が悪い。周りのメンバーたちもどうしていいやらで、困惑顔で見守るだけ。
今日のケンカはどうやら今度のハロプロ運動会でよっすぃーと一緒のチームになりそこねたあいぼんが飯田さんに駄々を捏ねたのが始まりみたい。
「北海道ロケん時かて、ウチおいてけぼりやってんで?なんで、ののばっかりよっすぃーと一緒なん?ズルイやんか!不公平やんか!」
ののに対してというより、横で困っている飯田さんに対する文句ともとれるあいぼんの抗議。
事務所や番組スタッフの決めることに私たちメンバーが口を挟めるワケないって事はあいぼんだって解ってるハズなのに、よっぽど悔しいんだね。
「なにかっていうとよっすぃーにちょっかい出すあいぼんの方がズルイのれす。よっすぃーとのんはなかよしだから、このチームわけでいいのれす!」
「なにゆーてんのや、よっすぃーはウチと一緒の方が楽しそうやんか!ののはこの前、よっすぃーに「ヤダー、カニくさい!」って突き飛ばされとったやん」
「あれはふざけてただけれす!」
収録中のちょっとした出来事もよっすぃーがらみだと、この二人には大問題らしい。
それにしても、いつからこんなに二人はよっすぃーに拘るようになったのかな。
私を含めて四期メンバーが『娘。』に加入した時、二人はまだ12歳、ほんの子供だった。
二人してよっすぃーの両腕にぶら下がるようにまとわりついて楽しそうに騒いでいたのが昨日の事のようなのに気が付けばののもあいぼんも中学三年生…あのころの私やよっすぃーと同じ年代。
すっかりお年頃になった二人とも、もう片腕だけじゃ満足できなくなってる。
見た感じが幼い二人だけど、すっかり女の子の目をしてるのに私が気付いたのは、ほんと最近のことだけど…。
「それやったら、勝負しよか?」
「のぞむところなのれす…のんはモーニング最強なのれす!」
グッと力こぶを出すときのようなガッツポーズを作るのの…まさか楽屋で取っ組み合いする気じゃないでしょうね!?
「誰が力くらべするなんて言うたんや!そんなんするわけないやろ…勝負するのはココや!ウチとのの、どっちが余計によっすぃーと心が通じてるか勝負するんや!」
『ココや』と言いながらあいぼんは頭を指さした。力じゃののには勝てないけど頭では勝てると思ってるのかな…。
でも、心が通じ合ってるって…いったいどうやって勝負する気なのかしら。
「いいのれす。のんが勝つにきまってるのれす」
でもまあ、取っ組み合いのケンカは避けられたみたい。
「ええか?よっすぃーが戻って来たら勝負や!…そうやなぁ、先によっすぃーに『好き』って言わせた方の勝ち!ただし、こっちから『好き?』って聞くのは無しやで…これでどうや?」
「『すき』っていわせればいいのれすね、そんなのカンタンれす」
勝負の相談に折り合いがついた所にタイミングよくよっすぃーが高橋と一緒に楽屋へ戻ってきた。
「やー、参っちゃったなぁNG連発しちゃって…ゴメンね高橋」
戻ってくるのが遅かったのはよっすぃーのNGのせいだったみたい…このあとみんな一緒にゲームの収録があるから予定通りならあと15分程しか休憩時間はない。
しきりに高橋に謝ってるよっすぃーに小さいのが二人すごい勢いで飛びついて行く。
「よっすぃー!ベーグルってどうおもうれすか?」
ののの先制パンチ、…それにしてもストレートすぎるよ、のの?
だいたいその『好き』でいいわけ?
「なに?ベーグルがどうかしたの?…てか二人とも、お〜り〜て〜」
よっすぃーの背中に張り付いてるのの…首に腕を回してぶら下がってるあいぼん、これじゃ勝負がつく前によっすぃー倒れちゃうよ。
二人のあまりの勢いに高橋はすっかり引いちゃって、部屋の隅で干しいもをカジってる紺野の所に早々に避難している。
さすがに加入一年以上ともなれば暴走した二人の側に留まるのがいかに危険かって学習したみたい。
「梨華ちゃぁん…辻加護がいぢめるよぉ」
二人を降ろしたよっすぃーは逃げるように、私の隣のイスにやって来る。
なんで、こっち来るのよ!一瞬イスから腰を浮かせたけど…逃げ遅れた。
二年半も一緒にいるっていうのに…高橋に負けた気分。
「なぁなぁ、よ・っ・す・ぃ・ー」
当然、小さいの二人もついてくる。ちゃっかりよっすぃーの膝の上に乗るあいぼんとそれをなんとか半分押しやって一緒に腰掛けるのの。
「だぁー!なんで二人して乗っかるかなぁ…梨華ちゃん半分引き受けてよぉ〜」
「なあ、よっすぃー!ウチな昨日ビデオで『アルマゲドン』見たんや、あれ面白いなぁ…なんやったっけオヤジさん役の…」
助けを求めるよっすぃーに返事をしようとしたら、あいぼんに思いっ切り睨まれた…被害を最小限に食い止めるためにはここで口を出さないのが一番なの、ゴメンねよっすぃー。
「ああ、ブルース・ウィリス!カッケーよねー、あたし大す…」
「よっすいー、ゆで卵たべたくないれすか!?」
あっさりあいぼんの勝利が確定するかと思った時、すかさずののが割り込んでくる。それにしても、食べ物ネタ以外ないの、のの?
「のの!ズルイで負けそうやからって今のはルール違反ちゃうの?」
あいぼんの突っ込みに、勝負そっちのけでまたケンカが始まっちゃう。
「なぁに、騒いでるかなぁ?……ああ、よっすぃーアイス食べるっしょ?さっき、スタッフさんが差入れてくれたんだ、梨華ちゃんにも…」
二人の言い合いの加熱振りと正反対にのんびりした調子。
楽屋備え付けの冷蔵庫から出してきたアイスを手にやってきた安倍さん。
よっすぃーは助かったという顔で安倍さんを見上げてる。
ちょうど喉も渇いていたし、私はそれを受け取って早速袋を開けて一口カジる。
安倍さんはよっすぃーにもアイスの袋を渡すと、縋るような助けを求める目には気付かないふりで、ふふっと小さく笑うと今度は高橋の方へと近寄っていった。
どうやら、私とよっすぃーそれと高橋以外は既にアイスを食べてしまったみたい。
膝の上でケンカが始まっちゃって、ちょっとウンザリした様子だったよっすぃーも袋をガサガサいわせてアイスをとりだす。
よっすぃーがもらったアイスは棒が二本刺さっててパキンと二つに割れるソーダ味のアイスだった。
よっすぃーは二本の棒を片方ずつ持ってアイスを二つに分ける。
見ると、ケンカしてたハズの小さい二人が目を輝かせてよっすぃーの手にしたアイスに釘付になっていた。
「…ん?なに、欲しいの?」
よっすぃーは、ののとあいぼんの顔を交互に見るとちょっと考えて両手のアイスを一つずつ二人に渡した。
きょとんとした表情の二人…ののが貰ったアイスをすぐにカジらないなんてめったに見られない光景だよ。
たぶん二人はよっすぃーとアイスを分けっこしたかったんだろうけど、よっすぃーはそんなコトには気付かずに自分の分も渡してニコニコしてる。
鈍感で、ちょっと的外れなトコあるけど…そんなよっすぃーだから、ののもあいぼんもよっすぃーが大好きなんだよね。
「でもぉ、よっすぃーの分なくなっちゃうのれす」
「そや、ウチらさっき食べたし…」
いつもは人の分まで平気で食べちゃう二人の言葉とは思えない…
「んー、じゃ!」
珍しくしおらしい二人にちょっと驚いてたよっすぃーも何か感じたみたい、二人の頭を優しく撫でてニッコリ笑う。
そのまま、差し出された二つのアイスをそれぞれ一口ずつカジった。
「これで、OK牧場だね!」
よっすぃーの膝の上、二人の顔がぱぁーっと明るくなる。
「のの…とりあえず今日のトコは勘弁しといたる」
「あいぼん…勝負はおあずけれすね」
『よっすぃーと分けっこしたアイス』を嬉しそうに頬張る二人…ふと、よっすぃーが私の方を向いて笑いかけてきた。
何度も見た光景、よっすぃーとののとあいぼんと…私と。
『娘。』のメンバーみんな、とってもステキな仲間だけど、やっぱり同期の4人にしか解らないコトってあるよね…たぶんそんな感じ。
「さあ、みんな収録行くよ!辻ぃ!加護ぉ!いつまでも食べてるんじゃないよー!」
飯田さんの声でやっと、膝上の二人から解放されたよっすぃーがスタジオに向かう途中で私に耳打ちしてきた。
「で…ののとあいぼんは何を揉めてたワケ?」
ほんと、鈍感だよね…面白いから、もうちょっと放っておこうっと。
「知らなぁい」
意地悪を言って笑った私の後ろでは…。
「のんの方が多かったれす」
「いーや、ウチのアイスの方をいっぱいカジってた!」
話題の小さい子二人の間で既に第二ラウンドが始まってた…。
end…less?
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