passenger seat 〜M to H



「外で会うの久し振りだねぇ」

お互いライブやミュージカルで忙しいけど
元気でやってるって思ってた。
画面の中のキミはいつもと変わらず笑顔で
親友の私が見ても気付かない程に普通だったから。

昼間の電話、キミの声のトーンが気になって
無理矢理約束を取り付けた
仕事終わりに待ちあわせした撮影スタジオの駐車場
事務所を拝み倒して取った免許
納車されたばかりのピカピカの新車で現れたキミ

「家族以外に乗せるのごっちんが初めてなんだ」

そう言う表情はいつも通りに優しくて
でもそれが私を不安にさせる

「え、いいの?約束…してるんじゃないの?」

前にあの娘に聞いた
最初に乗せてもらうんだって、ドライブに行くのって
私の言葉が聞こえないみたいにドアを開けて助手席に促すキミ

「ちゃんと安全運転するからね」

微笑む顔のその瞳だけが哀しい色で
電話で様子がおかしかったワケ
何があったか私にも大方の想像がつく
いいよ、キミがそうしたいなら私はどこまでもつきあうよ

暗い帳を流れていくイルミネーションが
流れ星のようでそっと私は願いを掛ける
『何も言ってくれなくてもいい…近くにいていいよね』

ゆっくりと巡る夜の街に時折見えるランドマーク
前に一緒にあそこに行った時、二人はまだ友達だった
もちろん今も友達だよ、けど私は自分の気持ちに気付いちゃってる
そっと盗み見る横顔は街の灯りを通り過ぎるたびに
険しく歪んで見えるのは光のマジックなのかな

「ツアーがんばってるじゃん、
一人で大変だろうけどソロのごっちんカッケーよなぁ」

そんな普通に微笑まないでよ
平気そうな顔で微笑まないでよ

「こことっておきの場所なんだ」って
路肩に停めた車にもたれて夜景を眺める姿は
いつも通りのカッコ良さでだけど
いやでも私は隣に寄り添ってたあの娘を思い出す
キミは恋人と見た景色を知らず知らず探してるんじゃない?

ふいに流れ出す携帯の着信メロディ…あの娘のユニット曲
いつまでも鳴り続けるその曲が気になって
私は車の中をのぞき込むけどキミはそれには目もくれずに遠いネオンを眺めてる

「いいの?出なくて」

「…いいの」

目線は遠いまま、声はあくまでも優しく
人に弱いところを見せないキミらしいけど
ずっとキミだけを見てきた私にはわかる

この電話に出たらキミの悲しみは消えるかもしれないよ?
でも、そうしたら私はまた少し離れたところから
キミを見つめることしか出来なくなるね

ダッシュボードで瞬く小さな星が消えて
街のノイズに被る着信メロディが途切れる
キミの幸せを願ってるハズなのに、ちょっぴりホッとしてる私

「切れちゃったね」

振り返るといつの間にかキミは座り込んでて
抱え込んだ膝に額をつけてうずくまってる
その姿がやけに小さく見えて
出会った頃の幼さを残したキミをふいに思い出して
愛しい気持ちが胸に詰まる

「泣く?」

隣にしゃがみ込んでキミの頭をそっと撫でる

静かに上げられた顔は思ってたよりずっと穏やかで
絡んだ視線に涙が滲んだのは私の方。

「なぁんで、ごっちんが泣くかなぁ…」

苦笑いの指先で私の頬を伝う雫をぬぐってくれるキミ
その手そっと両手で包んで引き寄せる
子供の頃ママがしてくれたように優しく温かいキス落とす

「あのね、私さ…よっすぃーのこと」

言いかける言葉を遮って私そっと抱き寄せて胸元に閉じ込めるキミ
きっとキミは気付いてる
なのに、言わせてくれないんだね
けど抱きしめてくれたのは側にいてもいいってことだよね

キミの胸に抱かれて
どれくらいそうしていたんだろう

「もう帰ろう…送ってくから」

来たときと同じ道を戻りながら窓の外に目をやると
遠いタワーの灯がフッと消える
それは日付が変わった合図
前を見据えたままのキミがポツリと漏らす一言

「昨日ね、昨日…ウチ振られちゃったんだ」

遠い昔を思い出すようなその口調

「そっか…」

待ち合わせた駐車場からずっと
いつも通りの態度を崩さなかったキミが
たった一度みせた傷ついた姿
車の脇で小さくなってうずくまってたその姿
私だけに見せてくれたキミの痛みを
ずっと覚えていよう

いつか許してくれたら
きっとこの気持ちを伝えたい

今、少しでも伝わらないかと
そっとキミの肩にもたれてみる

「………」

何も言わなかったけれど
キミの口元が少し笑ったように見えたのは
伝えられない想いが見せた幻かな?
想い続けていたら幻じゃなくなるのかな

悲しみも切なさも溶かしてくような
深く蒼い夜の中に伸びている
この道がずっと続くといいのに
キミと二人きりのドライブが永遠に続くといいのに

滲む涙をキミのシャツでこっそり拭って
キミに負けない強がりを見せよう
まだ友達の二人だけれど
今キミの隣にいるのは私だから

end


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