Voice



 「ごっちぃん、寒いよぉ…」

 いくら天気がよくても12月ですよ、ゴトーさん。
 冬晴れの午後、芝生広場だけのだだっ広い公園にはほとんど人影もない。
 この寒さじゃみんな公園でまったりなんて考えないよね普通。
 
 たまにはタカを外で遊ばせてあげたいってのはわかるけどさ、あたしは暖かい部屋でごっちんに遊んで欲しいよ…ヒサブリに会ったんだし。

 でも…あはは、かわいいねぇタカ。すっげー走り回っちゃって。
 その後を追っ掛けてるごっちんはもっとかわいいけど。

 ひとしきり走り回ってタカを追い掛け回すのに飽きたらしいごっちんは、ようやく戻ってきてベンチに座るあたしの隣に腰をおろす。
 走ってたせいでピンク色に染まった頬、少し荒い息遣いがかなり色っぽいんですけど…ねえ、ゴトーさん?
 あらぬことを考えてしまいそうになって、ここが公園だってことを思いだす。

 「そういえばさぁ…こないだのビーグルの子犬かわいかったね」

 とりあえず、気持ちを落ちつかせようとまだ走り回ってるタカを目で追いながら、あたりさわりなく犬の話題なんかでお茶を濁す。

 「あー?…ああ、あのコね!うん、目なんか真ん丸でクリクリしててさぁ、ほぉんとかわいかったよ」

 あの番組、ごっちんが子犬に『よっすぃー』なんて名付けるもんだから一人テレビの前で赤面しちゃったよ。
 翌日はメンバーみんなに冷やかされちゃうしさ。

 「ごっちん、あのコ欲しかったんじゃない?」

 「うん…でも、タカもいるしね」

 ごっちんは足元に駆けよって来てじゃれつくタカにバッグから取り出したビスケットをあげながら、すっごく優しい顔で笑う。
 それを見てるあたしもきっと自然と優しい笑顔になっちゃうんだ。

 足元のタカを撫でる手が、ふいに止まると屈んだ姿勢のままごっちんは振り向き気味にあたしを見上げてきた。
 ゴトーさん…反則です、その上目遣い。せっかく落ちつかせた気持ちがまたバタバタと暴れだす。

 「ねぇ?オンエア見ててさぁ、よっすぃーあの子犬になりたいとか思わなかった?」

 「へ…?」

 犬になりたいって…そりゃ、ごっちんに抱っこされた子犬がちょっぴり羨ましかったのは事実だけど。

 「ねぇ、よっすぃー?」

 ごっちんはニヤニヤしちゃって…どうしてそんなに楽しそうなのさ!?

 「う…ん、ちょっとは思ったけど」

 「そっか…なら、いいや!」

 何がいいんだか、ごっちんは勝手に一人で納得したように頷いてまたタカを撫でてやり始める。

 「あのさ『カオリさんちの犬になりたい』とか、ああいうのもうヤだからね…冗談でも淋しかったんだから…」

 視線はタカに向けたまま小さな声でごっちんは呟く。
 ああ、なるほど…あのコトやっぱり気にしてたんだ。電話で『冗談だよ』って言ったら笑ってたけど。
 なんか、あたしの言葉を気にしてすねた表情を見せるごっちんがたまらなく愛しくて、ここが公園だって事も全部どうでもよくなってすぐにでも抱きしめたくなった。
 もう、止めても無駄ですよゴトーさん、ヨシコ暴走しちゃいます。

 「はい!よっすぃーワンコ!」

 すでに抱きしめる体勢に入って身を乗りだしてたあたしの目の前にごっちんがいきなりビスケットを差し出した。
 …なんか勢いがついていたあたしは、一口でパクっとビスケットを食べてしまう。
 それを見たごっちんは一瞬驚いた顔で固まってしまい、あたしがモグモグごっくん、とビスケットを飲み込むとようやく気を取り直した様子で目を見開いた。

 「よ、よっすぃー、それ犬ビスだよぉ!冗談だったのに、なんで食べちゃうのぉ!?」

 その慌てようがおかしくて、アタシは思わず笑ってしまう。

 「アハハ…そうなの?どうりで変な味だと思ったよ」

 別に犬ビス食べたって身体に悪いことないと思うけど…ごっちんがあんまり心配そうな顔してるから、ついイタズラしたくなっちゃった。

 「…うぅ、なんか気持ち悪いかも…」

 顔を顰め、そう言って腹を抱えて蹲って見せる。

「やだ、よっすぃー大丈夫?ねえ、よっすぃー、よっすぃー…」

 ごっちんは本当に心配そうにあたしの名前を繰返し呼ぶ。
 『よっすぃー…よっすぃー…』って、あたしの名を呼ぶごっちんの声が嬉しくて具合の悪いフリを続ける。

 「よっすぃー、ねえってば、よっすぃー!」

 しばらくするとごっちんの声が聞こえなくなった。こっそり様子をうかがうと携帯を取り出して…もしかして救急車とか呼ぼうとしてる!?

 「あー、うそうそ!うそだって、大丈夫なんともないから」

 あわてて電話しようとしてるごっちんの手を押えてニッコリ笑って見せる。

 「もー!何それ、ひっどいなぁ」

 膨れっ面のごっちん。
 ああもう、今日は色んな表情のごっちんが見れて、ヨシコうれすぃーっす!
 プイっと横を向いたごっちんの膨れた頬を指でツンツンと押してみる。

 「ゴメン…悪かったってば…それよりさぁ、もっと…呼んで」

 ごっちんの目だけがあたしの方に向けられる。本気で怒ってる目じゃないよね、ちゃんと解ってるもん。

 「呼んでよ『よっすぃー』って」

 あたしがそう言うと「?」って顔で、ようやくこっちを向いてくれる。

 「子犬にあたしの名前付けてくれて嬉しかったけどさ、やっぱヤだ!テレビやライブで歌ってるごっちんの声はみんなの物だけど『よっすぃー』って呼んでくれる声はあたしだけの物だもん…いくらかわいい子犬にでも分けてあげたくない」

 せっかくこっちを向いてくれたごっちんの顔をじっと見つめていたいけど…それよりもっとしたいこと…。
 あたしは、そっとごっちんを抱きしめて「あたしだけの物」を待つ。

 「…よっすぃー」

 「もっと、呼んでよ……うわっ」

 せっかくいい雰囲気だったのに足元で放っておかれたタカがかまって欲しいのか、いきなりあたしの膝に飛びついてきた。
 ごっちんは少しだけ涙目?の笑顔でタカを胸に抱き上げる。

 「あのコね…最初本当に買い取りして連れて帰ろうかと思ったんだ」

 胸の中で暴れるタカを撫でていた手がいつの間にかあたしの頭を撫でてて…。

 「でも、よっすぃーは一人でいいの、ここにいるよっすぃーが居ればいいの…だから子犬の『よっすぃー』にはバイバイしちゃった」

 あたしの髪をクシャクシャにして楽しそうなごっちん。
 ごっちんに髪をクシャクシャにされて、あたしもすっごく楽しい気分。

 「ちょっと、イタズラ好きな困ったワンコだけどね」

 そう言って、また犬ビスを差し出して笑うごっちん。

 「わぅん!」

 …って、またパクっとやっちゃった。

 「もぉう!よっすぃー!?」

 ごっちんに抱っこされたタカがあたしの顔を羨ましそうに見上げてたけど…ダメダメ、絶対あげないよ。
 この声はあたしだけの物だからね。

end


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