もしも願いが叶うなら



気が付けば、そこは現実の世界で
アタシはよしこの部屋のベッドの上で泣いていた。

「う・・・ん・・・あれぇ?ごっちんどうしてここにいるの?」

眠そうに目を擦りながら寝ぼけ声で質問されて
自分の姿が人間に戻ってることに気がついた。

「・・・うっ・・・よ・・・しこぉ!!」

夢から戻っても涙腺壊れたまんまみたい。
次々溢れる涙でよしこが見えないよ。

「なになに?どした?ごっちん泣くなよぉ。」

流れる涙をよしこの長い指が拭う。
そのままそっとくれた優しいキス
額に頬に瞼に鼻先にゆっくり落とされる優しい雨のようなキス
最後に触れた唇は今までのキスと違って、深くて激しいものだった。
まるで今まで隠していた寂しさを全てぶつけるみたいな
お互い求め合ってることが感じられるようなキスだった。

離れたくなくて、もっとよしこを感じたくって
彼女の首に腕をまわしたら、まるでそれが合図みたいに
アタシの体はゆっくりとベッドに沈んでいった、

「会いたかったよ。泣かないで、ごっちんの笑顔が大好きだから笑ってよ。」

アタシも笑いたいよ。
でも、未だに涙が止まらない。

「コラ、笑え!笑えってば!」

アタシの頬を引っ張って、明るい口調で笑わせようとする彼女。
そういえば、よしこのお願いはアタシに笑ってて欲しいだったね。

涙止まらないけど、今のアタシにできる精一杯の笑顔を見せた。
アタシはね、よしこがいるだけで幸せなんだよ。
どんな時でもアタシを笑顔にできるのはよしこだけなんだ。

「・・・ごっちんその表情ヤバすぎ。もーダメよしこノックダウンです。」

抱きしめられる腕はいつもみたいに優しくなくてちょっと震えてる。

「よしこ泣かないでよ。」
「あたしは泣いてないよ。」
「うそつき。」

よしこの頬に手を添えてアタシの方を向かせる。

やっぱりね。

頬に流れる涙、キレイだね。

「なんでだろ、このままずっとごっちんに会えないような気がしてすごく不安だったんだ。
 こうやって会えたら安心しちゃってさ。変だね、あはは・・・。」

泣いてるの見られるのが恥ずかしいのか
照れたような笑顔で慌てて涙を拭こうとしたから
その手を優しく掴んで止めた。

「ダメだよ。擦ったら腫れちゃう。」
「あ、うん。」

2人で涙流して2人で笑いあって・・・抱きしめあった。

「真希・・・。」

あなたの口から洩れるアタシの名前が「ごっちん」から「真希」に変わったら
それはよしこがアタシを求めてる証拠。
アタシの返事だって決まってる。

「ひとみ、大好きだよ。」

よしこの唇と指がなぞる度にアタシの身体が熱を帯びていく。
その度に洩れる熱い吐息と切ない声。
そんなアタシの反応を楽しむかのように彼女は執拗に攻めてくる。
優しいけど激しくて、苦しいくらい気持ちいい。

「・・・ひ・・・と・・・みぃ・・・。」

切れ切れの擦れた声で名前を呼べば

「真希・・・好きだよ・・・大好きだよ。」

その度にちゃんと応えてくれる。

1週間ぶりに通じ合った心と重なり合った身体が
アタシの心を幸福で満たしてくれる。
今アタシの全部でよしこを感じてる。

もしも願いが叶うなら、今このまま時間を止めて。
もしも願いが叶うなら、このままずっとよしこを感じさせて。

その願いは届くことなく、アタシはよしこの腕の中で果てた。





「そういえばさ、あたし仔猫拾ったんだよね。」

さっきまでの甘いムードはどこへやら、まるで今日の天気の話でもするような口調。
ねぇよしこ、普通その・・・こういうのの後ってもっと甘い話しない?

「へぇ。」

気のない返事を返してるのは余韻のせいでトロトロしてるからだから
そんな覗きこまなくてもちゃんと話は聞いてるよ。

「すっごいかわいいんだよー! ちょっとごっちんに似ててね。」
「んー・・・名前は?」
「・・・ごま。」

ぷっ。
よしこまた顔赤い。
誰かにその名前教える度に顔赤くするのがかわいくって思わず噴き出しちゃったよ。

「笑わなくったってイイじゃん。」

ちょっと膨れて、拗ねるその仕草がすっごいツボなんですけど。

「そんなに似てるんだ。」
「似てるんだよ!!甘えん坊で駄々ッ子なところとかすごくね。」

ちょいと、よしこさん。聞き捨てならないなー。
アタシのどこが甘えん坊で駄々ッ子なのさ。

「ごっちんに会わせてあげたいな。ごま?あれ−いないや。さっきまでここにいたのに。
 ごまーどこ行っちゃったんだよー。」

ここにいるんだけどね。

「きっと、ごまは恋人のところに行っちゃったんだよ。」
「うーん・・・そうなのかなぁ。」
「ごまってグレーのトラ猫でしょ?」
「えーなんで知ってるの!?」
「さっきカッコイイ茶トラと寄り添ってるの見たんだよ。」
「・・・そうなんだ。」
「そうそう、だからきっと恋人と一緒にいるよ。」
「ごま・・・いつか帰ってくるのかな。帰ってきたらちゃんとごっちんに紹介するね。」
「うん。楽しみにしてるよ。」

でもね、ごまはきっと帰ってくることはないと思うよ。
だってよしこの側にいるのはいつだって後藤真希だからね。

だけどアタシは忘れないよ。
アタシの中にごまがいる。

優しくしてくれたね。
たくさんお話してくれたね。
いろんなよしこ見せてくれたよね。

今までみたいに寂しさだけじゃない。
アタシの気持ちは真っ直ぐによしこに向かってる。

そう思えるようになったから
物理的な距離は遠くても心の距離は今までよりずっと近くなった。
いつでもよしこが側にいるみたいに感じられるよ。

ありがと、チャーミー、圭ちゃん・・・じゃなくてケメぴょん、それからよしこ。
アタシの願いはちゃんと叶ったよ。


end



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