恋をとめないで <11>-Natsumi-


【2】

 部屋に戻って好きな音楽をかけて読みかけの本を手に取ったけど、頭の中にはまだ色んな事がギュウギュウとひしめき合ってて視線は文字を追ってるけど内容なんて全然入ってこない。
 よっすぃーはカオリと寄りを戻すの?それともやっぱりヤグチと付きあうの?どっちにしてもなっちに勝ち目は無いよね。
 …先回りして考え込んでちゃダメだって言われたばかりなのに、やっぱり思い浮かぶのはそんな事ばっかり。
 よっすぃーの気持ちが気になるけど本当の所はなにも解らないからいくら考えたって無駄なんだね。

 ヤグチの言葉を思い返す。『自分の気持ちを先に考える』っていうことは『自分がどうしたい』かを考えろって事だよね。
 手にしていた本を棚に戻して代わりにコンポのリモコンを拾い上げ音楽も止めて静かに目を閉じる。
 なっちは今何がしたい?どうしたい?…考えなくっても最初っからわかってるっしょ。
 何故?何を考えてるの?ずっと気になってること。
 よっすぃーのホントの気持ちが知りたい、よっすぃーとちゃんと話をしたい、人づてに聞いた話じゃなく直接聞きたい。
 それはたぶん、きっとなっちにとって嬉しい話じゃない…でも何も解らないままじゃ嫌だ。
 カオリの気持ち、ヤグチの気持ち他にも気になることはたくさんあるけど今だけはそういうの後回しにしてもいいよね。
 昨日は廊下に出ようとした所で親密そうなよっすぃーとヤグチを見ちゃったからくじけちゃったけど今日こそちゃんと確かめよう。


 部屋を出て一旦よっすぃーの部屋に向かいかけたけれど、ちょっと思いついてエレベータで二階へ下りる。
 そっと扉を開けると、誰もいないはずの食堂には明かりが灯っていて、カウンター越しのキッチンに人の気配がある。
 また小川と紺野が夜食でも漁りに来てるのかなと思ってのぞき込む。

 「あ、なっち…」

 なんだかちょっぴり楽しそうに小さく鼻歌を漏らしながら作業していたごっつぁんがこちらに気付いて顔を上げる。
 半開きの口元が僅かの間にキュッと結ばれて、バツが悪そうに視線を泳がせたあとごっつぁんは不機嫌そうな表情をこちらに向けた。

 「珍しいね、最近あんまり夜食べなかったのに…」

 細い身体に似合わずごっつぁんはすっごく食べる。
 それこそちょっと前には小川や紺野も顔負けなくらいに大食いで、夜中にキッチンでゴソゴソしてるのは大抵ごっつぁんだった時期もあったくらい。

 「カオリ…カオリ戻ってから何も食べてないじゃん、だから持って行ってやろうと思ってさ」

 調理台には美味しそうにでき上がったオムライス。
 思いだしたように手にしていたケチャップを添えてからお皿を持ち上げて、何もなかったようにごっつぁんは出ていこうとする。

 「あ…ごっつぁん、これは?」

 調理台の上には何故かもう一つオムライスが乗せられている、カオリと一緒に食べるつもりかな?

 「それ、作りすぎたから…アイツも夕飯食べそこねてるじゃん、丁度いいからなっち持ってってよ」

 ちょっとだけ立ち止まったけど、そう言うごっつぁんは振り返らずに出て行ってしまった。
 アイツってよっすぃーの事だよね。
 残されたオムライスはもうあとはケチャップを添えれば出来上がり。
 ごっつぁんがカオリにって持っていったヤツより何だか形良く綺麗に出来てるように見えるのは気のせいかな。

 実を言えばなっちも、夕飯に現れなかったよっすぃーに何か持っていってあげようと思ったんだけどごっつぁんに先越されちゃったよ。
 それもオムライスだなんてさぁ、なっちの得意料理。
 いつか好きな人に作ってあげたいなって思ってたオムライス、でもまさかごっつぁんの作ったのを置いてなっちが新しく作り直すワケにも行かないよね。
 ちょっぴり悔しいなって思うけど、そっけない振りで出来のイイ方をよっすぃーにって言うごっつぁんが何だか可愛らしく思えた。
 本当はごっつぁんを引き止めて自分で持って行ったらって言う方がいいのかもしれないけど、今日だけは許してよね。
 チューブを手に取って最後の仕上げ、自分で作れなかったけどせめてもと思いを込めてケチャップでオムライスを飾る。
 あー、ダメだぁやっぱこれはダメっしょ…。
 もうなっち何してんだろう、早く持っていかないと冷めちゃうよね。
 

 オムライスのお皿を手によっすぃーの部屋に向かう間、最初の一言は何て言おうってずーっと考えていたけど何も思いつかないままあっという間に5階に着いてしまう。
 エレベータのドアが開くとちょうど乗り込もうと待っていた様子の矢口と鉢合わせる。

 「ヤグチ?え……あ!」

 ふっとよっすぃーの部屋の方とヤグチを見比べてしまう。

 「あー、違う、違うからね」

 ヤグチはそんななっちの仕草にちょっぴり慌てるように両手を顔の前で振った。

 「さっきさ、なんかオイラけしかけるような事言っちゃったからさ、却ってなっちを悩ませちゃってるかな…ってさちょっと心配で見に来ただけ、って余計なお世話だよね」

 ドアを押さえながら乗り込んで来たヤグチはオムライスの乗ったお皿に目をやると、ふっと微笑んでそっとなっちの背中を押した。

 「持ってくんでしょ?早く行きなよ」

 押しだすヤグチの手に送り出されるのはなっちの身体だけじゃない。
 何て切りだそう、やっぱり何も聞かないほうが傷つかなくって済むじゃない…ってしり込みしてた気持ちまで一緒にそっと送りだしてくれるよう。
 うん、ダメもとで頑張ってみるよ。
 今までなっち振られるのが恐くっていつだって何も自分から動くことしなかった。
 きっと、よっすぃーの口からはなっちを好きって言葉は出てこない。
 だけどね、ちゃんと自分の気持ち話して、そんで振られたら前みたいに自分が嫌になって凹んじゃうなんてことないよね。

 「よーし、行くべさぁ」

 背中を押してくれたヤグチに聞こえるように、自分自身の気持ちに届くように声に出してみる。

 「おお、行ってきな!」

 照れ臭いから振り返らない、背中を向けたままヤグチに向けて肩越しにピースサイン。
 なっち今、結構イイ顔してると思う。
 振った後で『失敗したな』ってよっすぃーにちょっぴりでも思わせられるかも…そんなイイ笑顔出来てると思うな。

11−【1】←・→to be continued


妄想文リスト倉庫入り口トップ