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【1】
「ヨシザワ!また同じトコだよっ!」
圭ちゃんの少しイラついたような怒声がスタジオに響く。
いちーちゃんが卒業したあと、残されたアタシと圭ちゃんの二人で宙ぶらりんになっていたプッチモニによっすぃーが加入することになった。
圭ちゃんはいちーちゃんとのプッチにこだわっていたから、最初はずいぶんと戸惑っていたみたい。
でもアタシは実を言うと単純にうれしかった。
あの日…よっすぃーから突然「トモダチになろう」って言われた日から、アタシとよっすぃーの距離は少しずつだけど確実に近づいていった。
いまだに素直になりきれないアタシは自分からよっすぃーに話しかけたり近づいていくのが照れ臭い。
でも、よっすぃーはアタシが自分の周りに作り上げてしまった壁を簡単に跳び越えて来てくれる。
アタシが話しかけてほしい時には必ず、よっすぃーの方から自然な調子で話しかけてくれる。
おかげで意地っ張りなアタシも他のメンバーの目を気にせずによっすぃーと話すことができるんだ。
きっと「淋しそうだね、どうしたの?」なんて言われたら、そんな事ないって突っぱねちゃうんだろうな…。
そして、そんな風によっすぃーがアタシの側に来てくれるおかげでアタシの作ったみんなとの間の壁は少しずつ崩れてきたように感じられる。
裕ちゃんたち先輩メンバーには最近よく笑うようになったって言われた。
絶対に接点を見つけられないって思っていた辻ちゃん、加護ちゃんや梨華ちゃんも、よっすぃーと一緒にいるアタシには気軽に話しかけられるみたいで、少しずつだけど仲良くなれていると思う。
本当によっすぃーは不思議な人。
一緒にいると次々に自分で知らなかった自分を発見する。
あの時、よっすぃーの言った「鏡」の意味が、近ごろ本当によく解るんだ。
でもね、今いちばん思うのは、よっすぃーにとってアタシはどんな存在なのかな?ってコト。
「タンタンタン…と、ここで一瞬止めて!ほら、また流しちゃう」
圭ちゃんのよっすぃー指導はまだ続いている。
「振り通りやりゃイイってもんじゃないのよ。キメるところは意識してないと見てる人には伝わんないだからね。」
最初はよっすぃー加入にとまどっていた圭ちゃんも、今はすっかり新しいプッチを前以上の物にするんだって気持ちを切り替えたようだ。
それからは妙に張り切ってて、それがよっすぃーへの厳しさに繋がっているんだろう。
『今度の曲、新しいプッチモニはヨシザワが居なきゃダメな曲、ユニットだよ』
この間、圭ちゃんはそんな風に言っていたっけ。
「よっすぃーが居なきゃダメ」
ふっと口をついてそんな言葉が出てしまう。
「なぁ〜にぃ? 後藤なんか言った?っていうかアンタもいつまでも休んでないで練習続けるよ!」
圭ちゃんに促されてよっすぃーの横に並んで立つ。
なにげなくレッスン室の大きな鏡に映るよっすぃーを見てたら、突然言い様のない不安な気持ちが襲ってきた。
『…が居なきゃダメ』
これじゃ、いちーちゃんの時と同じ?
そんな風に考えていたら、アタシはボウッとして立ち尽くしていたみたい。
「後藤っ!」
気がつくとアタシはよっすぃーともつれ合うように床に転がっていた。
「アイタタ…。ごっちん大丈夫?ゴメンねー」
大丈夫とたずねるよっすぃーの方が、アタシの下敷きになっていてダメージが大きそうだ。
「ヨシザワがあやまる必要ないわよっ。ボーっとしてた後藤が悪い!」
立ち上がるアタシに手を貸しながら圭ちゃんが睨みつけてきた。
もっと、なにか言いたそうな顔してたけどそれ以上は何も言われないまま。
その後はなんとかレッスンに集中しようって、そればっかり考えて時間が過ぎていった。
→【2】
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