もしも願いが叶うなら



とうとう今日が最終日。
今日気づいてもらえなかったらアタシは一生猫のまま。
よしこの飼い猫として残りの人生を過ごさなくちゃならなくなる。

幸いにも今日はよしこがオフだから、1日中一緒にいられる。
きっと気づいてもらえるチャンスもあるはず!

「おはよーねぼすけごま。」
「にゅ〜。」

1日一緒にいられることで安心したのか
爆睡しちゃったアタシの目が覚めた時はもう正午を回ってた。

げげ!!
残り時間12時間しかないっ

わたわたっ

焦るアタシを勘違いしたらしいよしこは
「お腹空いた?ゴハンすぐ持ってくるからそんなに慌てるなよ。」
そういって部屋を出ていった。

さて、どうしよう。
残り12時間でアタシに気づいてもらうにはやっぱ何か作戦を立てないとね。
でも思い浮かばないな・・・どうやったらわかってくれるだろ。
うーんうーん・・・

あー!浮かばない!何も浮かばないよー!!

困ったアタシは部屋の中をぐるぐると所かまわず走りまくる。

「うわっなんだ?ゴハンがないからってそんなに怒るなよ。」

苦笑しながら定位置にゴハン皿を置いてくれたよしこにヤツ当たり。

そもそもコイツが鈍感なのがいけないんだ!!
うりゃ!!

ぼすっ

「うげっ」

アタシの頭突きは見事よしこの鳩尾にクリーンヒット!

「げほげほっ・・・ごまぁ何すんだよ〜。」

涙目になってやんの。
あーすっきりした。

すっきりしたところで気持ちよくゴハンをいただくとしましょうか。
今日のゴハンは・・・アレ?

白いご飯にかつお節と焼き魚。
しかもおまけに卵焼きまでついている。

「今日は家にいたのでごまのために作りましたー。っていうほどのものでもないけどね。」

ちゃんと魚は骨を取ってほぐしてあるよ。
誰にでも優しいこの人は、やっぱり猫にも優しい。

「気に入らなかった?」

気に入らないわけないじゃん。
心配そうに覗き込むよしこの頬にキス。
っつっても猫だから舐めたって感じかな。

「気に入ってくれたみたいでよかったよ。」

安心したように笑う彼女の横で久しぶりに食べたご飯はふわふわで、卵焼きは甘くって
なんだかとても暖かい気持ちになった。

ゴハンも済んで落ち着いたあたしはよしこの膝の上でくつろいでいた。
気づいてもらう方法を考えなくっちゃなー
そう思っていた矢先

「さて、ごまお風呂はいろ?」
「にゃ!?」

よしこってば昼間っから何てこと言い出すのっ
いやん、ごとー困っちゃうっ

って・・・誤解でした。
アタシの勘違いでした。
ええそうですよ、猫ですもんね。
なにもされないし、できないですよ。
ちぇーっ

「うはーごま泡立ちいいね!」

よしこの手で洗われてるアタシは全身あわあわ。
気持ちイイけどさ・・・なぜか悔しい。
なんだろこの気持ち。

湯船の代わりの洗面器。
シャツとズボンの裾をまくってアタシを洗うよしこ。
横目に映る湯船。
2人で入ると狭くってぴったりくっついて入ってた。
今のアタシは洗面器で十分。
しかもよしこは一緒に入ってくれないんだ。

「う・・・にゅ・・・。」

悔しい。寂しい。悲しいよ。

「ごっちん?」

え?

「・・・まさかねぇ。矢口さんの言うとおり相当重症だなこりゃ。」

苦笑するよしこ。

なんで今『ごっちん』って言ったの?
どうしたの? 
わかんないよ・・・

首をかしげるアタシに困ったような寂しそうな笑顔を見せて
「たった1週間じゃん。それなのに一生会えないみたいな気になっちゃうなんて
 ごまがごっちんに見えるなんて、ほんと重症だよ。」
そう言ったよしこの頬には1筋の涙が光ってた。

「にゃ〜。」

よしこ、よしこ泣かないで
アタシはここにいるから
たとえ元に戻れなかったとしても、ちゃんと側にいるからね。

「ごっちん・・・会いたいよ。声が聞きたいよ。
 側にいてよ・・・抱きしめたいよ、抱きしめて欲しいよ。」

不器用なこの人はこうやっていつも泣いてたのかと思うと
切なさで胸が押しつぶされそうになった。

ずっと一緒にいたいと願っていたのはアタシだけじゃなかったんだね。
アタシの願いはもうとっくに叶っていたのかもしれない。
だってどんなに離れていても心はいつも側にあった。
同じ想いを抱えてたんだ。

泡のついた手で涙を拭ったから、顔にも泡がついちゃって
顔中泡だらけで子供みたいに声を上げて泣く
こんなよしこ今まで見たことなかった。
アタシの前ではいつだって穏やかで優しい表情だったから

ホントは無理してたのかもしれないね。
強がってたんでしょ?
アタシには、アタシにだけは弱い自分見せて欲しかったよ。

「うにゃ〜みゃ〜!」

アタシはよしこに飛びついた。
ホントは抱きしめてあげたかった。
でもできなかった。

「うわっ」

全身泡だらけのアタシに飛びつかれて
服もあわあわでびしょぬれになっちゃったね。
ごめんね。

「ごま・・・ありがと。」

それなのによしこはお礼なんか言っちゃうんだ。
しかも泣きやんで笑顔になってた。

「ごっちんがいなくてすごい寂しくて、でもごまがいてくれるから
 ごまに救われてるから・・・ありがとね。大好きだよごま。」

「ありがと」はアタシのセリフだよ。
ありがとね、よしこ。
こんなにアタシのこと想ってくれて。
アタシのこと愛してくれてありがと。





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