恋をとめないで <8>-Hitomi-


【1】

 なんだかなぁ…圭ちゃん目が怖いよ。あれ、ウチを咎めてるつもりなのかな?
 そんくらいでビビっておとなしくなると思ってるのかね、んなワケないじゃん。
 そんな目で見られたって全然平気。
 どっちにしろウチには幸せになる権利もないんだし…誰かを傷つけて憎まれるのがウチへの罰なんだとしたらそれでいい、こっちは好きにやらせてもらうだけ。
 あいつが死んでウチが生き残ったあの日からウチの毎日は永遠に続いていく罰ゲームなんだから。

 ウチはずっとあいつを憎んでた…多分。

 親に期待され誰からも好かれてたあいつ…あいつさえいなけりゃ親父だって少しはウチに目を向けてくれたんじゃないか…あの人の恋人になれるんじゃないかって…意識してなかったけど、自分でも気付かぬうちにそう思っていたんだ、きっとそうなんだ。

 いつだって後を付いてまわっていたのも別に一緒にいたかったんじゃない、あいつを殺す隙をうかがっていたのじゃないかな?
 あの日、ダメだっていうに無理を言って潜りに連れていってもらったのだって…そう考え出すとあの時もあの時も、と自分の行動が全てそこに向かわせるためのものだったような気さえしてくる。

 こんなウチはあの時あいつの代わりに消えるべきだったのに…神様って何を考えてるんだか。
 親からもあの人からも大事な人を奪い取って、いらない人間のウチを生かすなんて…生かして罰を与えて苦しむのを見て楽しんでるんじゃないの?

 しかしなぁ、まさかあの人が…カオリさんがここの寮生だったなんて、まだ信じられない。
 別にもう関係ないんだし、気にしなけりゃいいんだ…けど、けどさぁいきなりキスしようとするなんて、何考えてるんだろ?
 あいつのこと思いだしたのかな…またウチをあいつの代わりにするつもりなのかな、ちょっと気になる、せっかく楽しくなりそうなのに…。
 でもまてよ、むしろカオリさんに再会したのはいいことなのかも…単純にかわいい娘ばっかで浮かれてたウチに、これは罰ゲームなんだって思いださせてくれたんだもん。

 …本気で誰かを好きになったって無駄なことだって教えてくれたカオリさん。
 あの日、新しい恋人が出来たって言われてあっさりウチを振ったひと。
 あいつの代用品としか見てくれてないって解ってたけど…1年付きあって少しずつ好きになってくれてると思ってたのに、結局はウチの独り相撲だった。
 最初っから解ってたことだけどさ、あの時はけっこう凹んだよ…事故の時より凹んだかもね。

 決心してたのに…いまも海の底にいるような気がするあいつに『もう言ってもいいよね?』って…許してくれなくっても言うからって決めたのに、やっぱあいつの呪いかな…言う前に失恋だもんな。
 どうせ誰もウチに本気で期待なんてしてない、ウチのこと好きだとか言ってくる娘達だって男の子の代用品くらいにしか考えてないんだって解らせてくれたカオリさんは、ある意味恩人なのかもね。
 もう、二度と自分から誰かを好きなったりしない…ウチはその時楽しませてもらうだけ。
 そんで最後は誰にも気に止められずに一人で寂しく消えていけばいい。


 ねえ、神様そこらへんから見てんの?満足してる?
 だけどさ、ただ思い通りになるのも癪だからね、苦しむ前にせいぜい楽しませてもらうよ、好き放題やってもっとみんなに憎まれてやるよ。
 その方が神様も退屈しないでしょ?

 人の心なんて簡単に変わるものだって教えてくれたカオリさんにはお礼代わりにキスの一つくらい快くさせてあげりゃよかったのかもね…。


 「よっすぃー、どうかしたの?」

 カオリさんに会ったくらいで動揺してる場合じゃない、つい考え込んじゃってたら梨華ちゃんが心配そうにウチの顔をのぞき込んで来た。

 「ん〜?梨華ちゃんかわいいなぁ…って」

 ココの娘たち、予想よりかわいいコばっかだし純情そうなタイプからお手軽なコまで揃っててより取り見取りっつうの?

 「きゃ〜、そんなかわいいなんてぇ…ホントに?ホントにそう思う?」

 梨華ちゃんはさ、ホントからかうとすっげー面白い。リアクションがさぁ、一々大げさっつうか…変なトコで年上ぶるのも結構ツボなんだよね…まあ彼氏?いるみたいだけど、そんなにこだわってないみたいだし意外と簡単に落ちそう。

 「石川ぁ、お前キショいぞ!なにシナつくってんだよ!」

 矢口さんは、まああれだ…。
 割り切ってるトコがウチと似てるかな?小っちゃくて抱き心地も悪くない。
 寝物語に重たい話されちゃったのは参ったけど…あんな話なんでだろう、ウチのこと見透かされたと思って一瞬動揺しちゃったよ、別に何も知ってるワケ無いんだし気にすることないんだろうけど。

 「この寮って入るのにオーディションでもしてるのかと思っちゃいましたよ…みんなかわいい娘ばっかりなんだもん」

 「また、よっすぃーは人をおだてるのが上手だべ…」

 安倍さんはね、ちょっと意外だったな。もっと大人かと思ってたのに、あんなコトくらいでマジな顔しちゃって。
 今だって笑顔向けて話しかけただけで、頬染めて俯いちゃってさ…梨華ちゃんよりずっと純情じゃん…確か21だって言ってたよね、中学生並の反応なんだもんホント驚いたよ。
 今日は朝から溜め息ばっかついてるし、じっと見てくるかと思えば淋しそうな表情したり、梨華ちゃんとは別の意味で反応が面白いし気になるっていえば気になる存在。

 「ちょっと近づきすぎ!なっち困ってるじゃん…」

 でもねぇ、一番面白いのはやっぱりごっちん。
 梨華ちゃんや安倍さんに近づくたびに突っかかってきてさ…。

 「何じろじろ見てんの?」

 ホラまただ…。

 「ごっちん怒った顔もかわいいから、つい見ちゃったよ」

 素っ気無い物言いで、こっちが目を見つめようとするとスッと視線を外しちゃう…なんか、あそこまで拒否反応見せられると却って闘志燃えるってあるじゃん。

 「吉澤さんに『ごっちん』とか呼ばれる筋合い無いから」

 だいたいウチのこと思いっ切りひっぱたいてくれちゃった代償はキッチリ払ってもらわないとね。

 「ごっつぁん、そんな言い方ないだろぉ。夏休みの間だけとは言え同じ寮の仲間なんだしさ」

 「…そうだよ、別になっち困ってないべ、ちょっと慣れてないから緊張してるだけっしょ」

 矢口さんや安倍さんのフォローの言葉も完全に無視、横目でウチを睨みつけるとまたプイとあさっての方向を向いて知らん顔。
 いいねぇ、俄然やる気出てくるよ絶対にこっち向かせてやる、そんでなびいてきたら思いっ切り振ってやる…あー、そんときどんな表情するか今から楽しみ。

 「今度は私たちの隣に座ってください!」

 ごっちんの横顔を見ながらニヤニヤしていたら、横手からふいに声をかけられた。
 えっと、愛ちゃんと…麻琴ちゃんだっけ?
 あれ?もう一人いたよね昼間の…あさ美ちゃんだっけ?
 そう思って辺りを見回すと奥の方で圭ちゃんと何か話してる?
 カオリさんとのアレ…圭ちゃんに話しちゃったのかな?
 エレベータでのことは別にバレたっていいんだけどさ、昔のことまで詮索されるのはちょっとヤだな。

 「あれぇ、ダメじゃん圭ちゃんてば小さい子いじめたら…」

 ちょっと様子をうかがうためにみんなの輪を外れて二人に近づいて行く。

 うん、まだしゃべってないみたいだね…一応念押しとこうかな。
 あさ美ちゃんの横に並んで肩をグッと抱寄せる、同時に俯き気味の顔をのぞき込んで視線を合わせニッコリ…カ・ン・ペ・キ!
 ウチが笑顔でジッと見つめればポぉっと逆上せたようになるか黙って俯くか、どっちにしても冷静に圭ちゃんと話していられるワケない。

 チョロイもんだよ…のハズだったのに、なんかこの娘回路がずれてない?

 ウチの行動に動揺した様子のあさ美ちゃん。
 すっとんきょうな声は食堂に響き渡って、結局エレベータの中でカオリさんがウチにキスしようとした事は圭ちゃんだけじゃなく、その場にいた娘たちみんなに知れ渡ってしまった。

 朝からごっちんに散々『タラシでいいかげんなヤツ』呼ばわりされてて、ウチが色んな娘に言い寄っている事はみんな気付いてるみたいだから今さらその相手が一人増えたくらいに思われたって、別にいいんだけどね…。

7−【2】←・→8−【2】


妄想文リスト倉庫入り口トップ