|
【1】
ごっちんはどこもおかしくないって言ってくれたけど、やっぱり気になる…。
夏休みの間だけ寮に入ることになったっていう、あの人。
吉澤さんは保田さんのイトコだっていうけど、なんだか雰囲気は全然違ってた。
優しい笑顔で誰にも分け隔てなく話しかけていたけど、私にだけは声をかけてくれなかったのはなぜかな?
引っ込み思案な私が安倍さんや愛ちゃんの後ろに隠れるようにしていたせいかもしれないけれど…。
吉澤さんはみんなと話しながら時々ふっと私の方を見てくるだけ。
視線がぶつかりそうになるとつい目を逸らしちゃう私がいけなかったのかな。
食堂を出るとき、ちょっぴり振り返ったら、吉澤さんは私を見ていたみたいでばっちり目が合っちゃった。
一瞬息を飲んだけど吉澤さんのお陽さまみたいな笑顔に、つい私も笑顔で返しちゃって…。
ずっと、俯いて黙っていたのにこんな時だけ笑顔になるなんて変な娘だと思われちゃったかな。
寮のみんなとごっちんの部屋でひとしきり騒いだ後、もう一度ごっちんに聞いてみた。
「梨華ちゃんカワイイから見てただけだよ」
普段あんまりおしゃべりじゃない分、ごっちんの言葉ってなんだか説得力があるような気がするの。
カワイイかぁ…私ってカワイイのかな?ごっちん本当にそう思う?
吉澤さんも私のことカワイイって思ってくれてたのかなぁ?
矢口さんたちは先を争って食堂へ駆けて行ったけど、私はなんだか気後れしちゃってごっちんと話した後もなんとなく気分がすっきりしなかった。
だから一人で食堂に向かう途中エレベーターのドアが開いたとき、正面に吉澤さんが壁にもたれて立っていた時はびっくりしちゃって、思わず「閉じる」のボタンを押しちゃって…。
閉まりかけたドアを素早くすり抜けて来た吉澤さんは初めて私に向かって話しかけて来た。
「食堂行くんじゃないの?」
狭いエレベータの中で、いきなり二人っきりなんてどうしたらいいのー!?
「もしかして、ウチって恐い?」
うつむいている私をよそに相変わらずの笑顔で見つめてくる吉澤さん。
「石川…梨華さん、だったよね。梨華ちゃんって呼んでもいい?」
……!びっくりした、私の名前覚えてくれてたんだ。
さっき一言も話さなかったのに…安倍さんが簡単に名前だけの紹介をしただけなのに覚えてくれたの?
「あの、じゃあ私もよっすぃーって呼んでもいいかな?」
矢口さんが言っていたニックネームが口をついて出て来た。
私にしてはすっごい大胆な発言。名前を覚えてくれてたことがうれしくて、恥ずかしいのも忘れて真っ直ぐに優しげな笑顔を見つめて言った。
「もちろんだよ!」
私が「よっすぃー」て言ったとたん、吉澤さんはすぐに笑顔で言ってくれた。
「じゃあ、よろしくね梨華ちゃん」
今まで私、女の子に対してこんなにドキドキしたことなんかなかった。
時々、矢口さんたちが「かっこいい女の子」の話をしているのを聞いても対して興味も湧かなかったけど、吉澤さん…よっすぃーに見つめられるとひどく落ち着かなくて自分の心臓の音が聞こえそうなくらいドキドキしてる。
矢口さん達があんなに騒いでいた気持ちが初めてわかった。魅力的な人って男の子とか女の子とか関係ないんだね。
「なんかさぁ、カワイイよねぇ梨華ちゃん、年上とは思えないや。彼氏とかいるんだろうなー。」
よっすぃーはエレベータの「閉」ボタンを押えたまま少し小首を傾げるような仕草で微笑みかけてくる。
「か、彼氏なんていないもの…。男の子って乱暴で自分勝手で…嫌い」
言いながら、先週ケンカ別れしたままのボーイフレンドの顔が浮かんで来た…よっすぃーの方が全然カッコイイ。
男の子なんて自分勝手で乱暴で、ちっとも優しくないもの。
以前はクラスメイトと「彼氏いないなんて淋しすぎぃ」なんて、ふざけて言いあってみたりしてたけど、今はもう彼氏は…いいやって感じ。
よっすぃーは、ちょっと男の子みたいな身なりだけど、優しくてキレイで…きっとあんな勝手なコトしたり、言ったりしないんだろうな…って、私ったら何考えてるんだろう。
一瞬、よっすぃーと抱きあっている自分の姿を想像しちゃった…私にこんな風に思われてもきっと困るよね…。
男の子なんてキライって言う、私の言葉を聞いても、よっすぃーはごく普通にニコニコと微笑んでいた。
学校の友達には「なにそれー?」なんて興味本位で突っ込まれた。男の子の話題に乗らなくなった私はツマンナイ娘だなって顔をされたのに。
「ふうん、そっか」
って、よっすぃーは特に驚きもしない。ちょっと、ニヤニヤした感じの笑い方が気になるけど…。
よっすぃーは何事もなかったみたいにエレベータの「開」ボタンを押して、そのまま私の方に手を差し出した。
「別に男の子と付き合わなくったって他にも楽しいこといっぱいあるしね……。さ、食堂行こうよ」
この手って……握手したのを「手を握られちゃいました」って顔を真っ赤にしてた愛ちゃんを思いだしてふっと笑ってしまった。
よっすぃーは黙ってる私の手をさも当然っていう風に取って、そのままエレベータを降りて歩き出す。
引っ張られるようについていくと、いきなり立ち止まるよっすぃー。
私は止まるのが間に合わずにそのままぶつかりそうになる。
手をつないでいたから、その腕につかまるような格好になってしまった…こ、これって腕組んでるみたいじゃない!
「すっごいクルクル表情が変わるんだねー。やっぱ、かわいいよね梨華ちゃんって」
これ以上ないってくらい私の耳元に顔を近づけて、よっすぃーが囁く。
キ、キスされるかと思っちゃった…。
う、うわぁ〜、私さっきから何でこんなことばっかり考えちゃうの?
ごっちぃ〜ん、私やっぱりおかしいみたい。
ドキドキが喉のあたりまで上がってきて、もういっぱいいっぱいだよぉ。
あわてて、しがみついていたよっすぃーの腕から離れようとしたけれど、私より力強いその手は私を離してくれなかった。
そのまま、二人で食堂に入っていく。
一瞬にして食堂の中で騒いでいた寮生たちがシーンと静かになった。
皆の目が私とよっすぃーの繋がれた手に集中しているのが解る。
よっすぃーは、皆が集まっているテーブルの一番はじに空いていたイスを引くと、お芝居みたいな仕草で私を座らせてくれた。
すかさず矢口さんが立ち上がり自分の隣に空けてあったらしい席を指さしてよっすぃーを呼ぶ。
「こっち!ここに座りなよ!」
それなのに、よっすぃーはわざわざ隣のテーブルからイスを一つ引きずって来て、
「いやぁ、ウチは新入りだから…はじっこでいいです」
と、私の横に腰掛けた。
うれしいけど……矢口さんの視線が怖いよぉ〜。
鋭い視線から逃れるように俯いて目を合わせないようにしていたけど、その後のことはよく覚えていない。
ごっちんが中澤さんに外出することを告げに来て…それから夕食をとったはずなんだけど、私は何を食べたのかそれどころかちゃんと食事をしたのかも解らない。
ただただ、隣に座るよっすぃーの笑顔と不機嫌に私を睨んでいるような気がする矢口さんのコトばかりが気になってた。
よっすぃー、もしかして私のコト好きになっちゃった?
っていうか、私よっすぃーのコト好きになっちゃった?
食事の後、矢口さん達に引っ張られて行くよっすぃーを横目に自分の部屋に戻る。
倒れ込むようにベッドに突っ伏して溜め息を大きく一つ。
ライバル?になりそうな娘の顔が順番に浮かんで来た。
少なくとも「握手」を勘違いしてる愛ちゃんと隣の席をやんわり断られた矢口さんには私、勝ってるよね?
小川と紺野は問題外として…安倍さんは?安倍さんも大らかって言えば聞こえがいいけど田舎クサイとこが抜けてないし、うん勝ってる!と、思う。
ねえ、ごっちんはどう思う?
ごっちんはよっすぃーには興味ないみたいだったから大丈夫だよね。
いつも冷静なごっちんなら、きっといいアドバイスをしてくれるに違いない、今夜ぜったい相談しなくっちゃ。
あー、早くごっちん帰ってこないかなぁ。
2−【2】←・→3−【2】
|