|
【2】
「あー、よっすぃー!ちょうどいいや」
スタジオ手前の休憩コーナーのソファーにはリーダー飯田さんと
騒動の元とも言える藤本さんが座り話し込んでいた
「藤本にさ色々聞かれてたトコなんだけど…ちょっとカオの代わりに
よっすぃー教えてやってくんない?」
新加入の藤本さんとしては大所帯での活動は初めての事ばかりである
何をするにも疑問がつきまとう
気配りリーダーを自認する飯田さんとしても藤本さんをフォローする
気持ちはあるのだが、休憩時間中に済ませて置きたい用事もある
吉澤さんの登場は飯田さんにとっては絶妙のタイミング
すかさず声をかけたというワケだ
「ごっちん通らなかった?」
ここまで辛抱強く読んでくれた読者諸氏には解りきっていることと思うが
吉澤さんには時間的にも精神的にも飯田さんの話を聞く余裕はない
逆にいきなり質問されて飯田さんは困惑してしまう
「すっごい勢いでスタジオに駆け込んでったのは見たよ…
声かけたのに気付かなかったみたい」
藤本さんがスタジオ入口を指して言う
…気付かなかったのではない、腹を立てている後藤さん
実際のところ藤本さんに責任はないのだがやはり面白くない
ついつい無視してしまったというのが本当の所である
「でも、ちょっと前だからもしかしたらもういないかも
美貴たち話し込んでたから出てっても解んなかったし」
スタジオに突進していく吉澤さんは藤本さんが付け足した言葉など
聞いていない…もうお約束である
「なんや…ごっつぁんの次はよっさんかいな」
番組を仕切る中澤さんはともかく他のメンバーが
休憩時間にスタジオにやってくるのは珍しい
安倍さんとともにスタッフと話していた中澤さんが驚きの声をあげる
「そんなにあわてて危ないっしょ…どうしたの?」
とにかく後藤さんがスタジオに来たのは間違いないらしい
吉澤さんは膝に手を置き息をきらしつつたった一つ知りたい事を口にする
「はあ…ごっ、ごっちんまだ居ます?」
吉澤さんの様子を見てニヤニヤする中澤さん
「やっぱり!よっさんのせいか、ごっつぁんが荒れとんのは」
「ああ、そっか…そかそか」
隣で安倍さんも納得顔
「荒れてる、ってどんな風にですか?」
ちょっぴり聞くのが怖い吉澤さん
ビクビクしつつ中澤さんの言葉を待っている
「ほれ、あっこにあるマットにガンガン蹴り入れとったで!
…あれは昨日今日の怒りやないな、
日頃から溜まっとるもんが爆発しとる感じやったね」
スタジオの隅に目をやると三つ折りにされた体育マットが3枚
そのうち2枚は綺麗に並べて壁に立て掛けてあるのだが
1枚だけが床に倒れ三つ折りも解けかかっている
その1枚が後藤さんのパワーの犠牲になったのであろう
「ぶっ殺すとかボコボコにしてやるとか物騒な事言ってたで」
いくらなんでも中澤さん…言いすぎである
吉澤さんのビビる姿があまりにも面白いのでカナーリ話を大げさにしている
「少し暴れたら気が済んだみたいで出ていったんだべ」
面白がって煽る中澤さんと対照的に
のんびりした調子で安倍さんが言う
あまりにものんびりしているので言い終わった時には
吉澤さんはスタジオを飛びだしていた…お約(ry
スタジオを出た吉澤さん
飯田さん藤本さんの前を疾風のように駆け抜ける
今度は飯田さんに声をかける隙さえ与えない
年少チームの楽屋前を通り抜ける時には
ちょうど出て来た新垣さんとぶつかりそうになるが
「ひゃっ!」っと頭を抱えて蹲る新垣さんをひらりと飛び越えていく
去年の運動会よりもハードルは上達しているかもしれない
しかし調子よく走る吉澤さんの勢いもここまで
そのまま年長チームの楽屋も通り過ぎようとした時
矢口さんに行く手を遮られてしまう
相手は新垣さんより小さい
一気に飛び越えてしまえ!…というワケには行かない
吉澤さんにとって矢口さんは仮にも先輩である
教育係でさえあった
その上メンバー中一番身体は小さいが
態度・・・元い存在感はもしかしたら一番デカイのが矢口さんである
渋々矢口さんの前で立ち止まる吉澤さん
「ごっつぁん見つかんないのか?
でも、もうすぐ次の収録始まるから諦めてさぁ
とりあえず楽屋にメモでも書いて置いてこいよ」
恋人にバカ呼ばわりされてアタフタと走り回っている吉澤さんだが
これでもプロのアイドルである
仕事キッチリ…これは鉄則なのだ
この後、屋上とレッスン室と1階のラウンジをチェックするつもりだったが
泣く泣く矢口さんの言うことに従うことにする
先ほどまでの勢いはどこへやら
肩を落として後藤さんの楽屋にやってきた吉澤さん
メッセージを書くつもりが筆記具がないことに気付いた
室内を見回すとソファーの向こうのローテーブルに
ボールペンとメモ用紙が散らばっている
それをちょいと借用しようとソファーを回り込んだ吉澤さんが見たのは
食べて暴れて…ついでに泣き疲れた様子の後藤さん
ソファーの上に猫のように丸まってスヤスヤと寝息を立てている
「…ごっちぃ〜ん」
走り回った苦労は何だったのか…
吉澤さん一気に脱力して後藤さんの側に座り込む
自分をこんなに走り回らせた原因を取り除くべく
すぐにでも後藤さんを起こしたいところだが
ついつい寝顔に見とれてしまう
うっすらと涙の跡が残る寝顔はとにかくかわいい
そんなかわいい寝顔を眺めているうちに吉澤さんの頭に
ちょっとしたイタズラ心が浮かぶ
後藤さんを怒らせた自分の言動については
そろそろ忘れ始めている吉澤さんであった
【1】←・→【3】
|